2017年6月20日火曜日

知らなかった戦争の頃の生活「戦下のレシピ」

戦下のレシピ~太平洋戦争下の食を知る~
著/斎藤美奈子
岩波書店 岩波現代文庫 2015年
383/サ

手に取ったのは、さほど真面目な理由ではありません。
たまたま、最近観たアニメの舞台が昭和12年くらいで、それは時代考証が大変丁寧に詳しく作られた作品でしたが、わたしが想像していた「戦前」とは違っていました。

物語の中の「戦前の日本」は文化的でオシャレで、どこか明るい雰囲気すらありました。
そんなわけで、実際にどんな暮らしだったのか、という興味半分で手に取ったのがこの本です。



さて、わたしが知っている太平洋戦争下の食といえば、
「お米がない」「配給」「闇市」のイメージです。

出征する息子に、闇市で手に入れたお砂糖であんこを食べさせたのは
「終戦のローレライ」だったか…
「火垂るの墓」は何回観ても泣くし、ドロップの缶をみると切なくなる。
「この世界の片隅に」で、米を少しでもかさ高く炊く、すずさんの苦労。

でも、よく考えると戦前の生活って知らないのです。
戦前といっても、太平洋戦争前は15年戦争の最中で、戦時下でもあったはずです。
その頃の生活も、この本ではまとめられています。

・産業革命で豊かになっていく都市生活
・ハイカラなものが流行る
・銀座にデパートができる
・コロッケもライスカレーもキャラメルも普通に庶民が食べてる
・オシャレな婦人雑誌がハイカラな料理のレシピを紹介

ちなみに、この時代の婦人雑誌が初めて「母の手作り=愛情」を謳っています。
母の手作り、古きよき日本の母イメージはこの時期に作られたものなのですね。

(そもそも農村などは貧しくて調理したおかずが並ぶようなことがない)
(江戸時代は女性が働くのは当たり前で裕福な家の炊事は奉公人の仕事)

なるほど、
・この時代は新しいものがどんどん取り入れられて、
・一家総出で働く貧しさから解放されて、
・主婦という新しいポジションが生まれた時代
なんですね。

一方で、女性が、「職業婦人」といわれるような、
下働きや家業ではない働き方を始めた時代でもあるのが対照的です。

都市に住む市井の人にとっては、
豊かな明るい未来に向かっていたつもりなのだろうなあ…と、
この本からは感じられました。
(もちろん、女工哀史や当時の農村などの過酷さも現実としてあって)
(さらに、正しい国際情勢は伝えられず、太平洋戦争へと続く未来ですが)

そしてもう一つ。
戦争のもっと以前から、
日本は人口増などに農業の発展が追いついておらず、米不足で輸入に頼っていました。
このため、国策で「米を食べない」ように求められて、代替食として小麦粉の料理が紹介されています。
日本は戦前から、米が足りていなかったのです。(約2割が輸入だった)

戦争だから米がなくなったのではなく、
・もともと少なかった
・凶作が起こる
・戦争で物流や産業が軍需一極集中する
・生産できない、流通が麻痺する、燃料がないから漁もできない
などなど、戦争によってあらゆるライフラインが破壊されていくのです。

これらのことが、当時の婦人雑誌などを元に淡々とまとめられています。
文庫サイズでさらっと読める語り口。
戦争下では女性が、家庭が、そしてそれに支えられる「文化」が
どのように破壊されていくのか、が、生活目線でよくわかります。

あからさまな反戦の物語ではありません。
だからこそ、戦争がどのようなものか、説得力がある一冊でした。

S.F